多感作用と誰が為の共感

萊草唳の創作雑記

2012-11-01から1ヶ月間の記事一覧

ほしのにんぎょひめ Der Jäger   

父は何か懸念事があると決まってレコードに針を落とす 今日は、 "Der Jäger" Johannes Brahms Op. 95 を、 頑迷そのものである父が好む音楽はどこか華やかで そして楽しげである 聞く曲は父がいつも選ぶが、曲をかけるのはいつも決まって私である、 かつては…

ほしのにんぎょひめ Beim Abschied

彼女から聞かされた人魚姫の伝承によると 度重なる嵐にが原因で漁村であったこの街が存続の危機に見舞われた時に 村の長がある日これは人魚の仕業であるというお触れを出し その怒りを鎮める為に松明の灯を絶えず灯し続け時には生贄を差しだすような事もあっ…

ほしのにんぎょひめ Bei dir sind meine Gedanken

「ほんの少しだけ滞在するみたいに言ってた癖に随分長い事いるじゃない」 「…まあ、宿代がほとんどかからないというのが一番大きな理由かな、 多少の不便には慣れてるので、これくらい」 「………」 「何をそんなに不満そうな顔してるんだ?…言ってみてよ。」 …

ほしのにんぎょひめ Das Mädchen

少女は、洞窟の傍に立っていて 煌々と燃える松明が彼女の横顔をにわかに照らしているのだった。簡素な身形をしているものの、目鼻立ちが整っていてきれいだと、俺は思ったのだった。 手には乾燥した草らしきものを持っている、そこに目をやると彼女は自身の…

ほしのにんぎょひめ Das Mädchen spricht

街を転々とし始めてしばらく経ってから分かったのは一つ その街の図書館、本屋に行けばだいたいの事が分かるという事だ いつものようにこの寂れた街にはひどく不似合いにも見える図書館に足を運ぶ 人は居らず、司書は退屈そうに肘をついてどこか不満顔で椅子…

ほしのにんぎょひめ 閑話 稚拙なシナリオライター

寂れた街を再興する為に秘密裏に行われてきたあることに触れる事が出来たのは幸いだったのか、それとも不幸だったのか どちらにしてもこのどこまでも沈んだ意識が某かの期待も希望も受け付ける事はないのだろう なんとも酷い気分だ 一度触れてしまった秘密か…

ほしのにんぎょひめ 14項

「あの日、見知らぬ男が酒場に来たんだ、久しぶりに そしてあいつが掴みかかっていつもの品定めをしたあと 滞りなくあの洞窟付近の海岸にに男は誘導される筈だった 俺は鄙びた街に人を呼ぶ為の客寄せ要員として 人魚姫の格好をしてたんだ だが、席を代わる時…

ほしのにんぎょひめ 13項

「実際いるにはいるんだよ、お前みたいに、純粋に人魚姫の存在を信じて 長年それを追い求めているような人たちは …ただそういう人たちはかなり高齢で 自分から情報を提供したり、交換しに何処か集まって会話するという事がないんだ だからこそそれを利用する…

ほしのにんぎょひめ 12項

ぼくは再び酒場の扉を開く、結果はどうであっても確かめなければいけない事があるから 「そろそろ来る頃だと思っていたよ… 店は変わってしまったけど、品揃えだけはあの時のままを目指そうとしたが、そうもいかなかったらしい …やはりあの人には敵わないな。…

ほしのにんぎょひめ 11項

伝承に対する信憑性を維持するという名の下暗黙の了解として進められてきたとある風習を ぼくはその日まで知らなかった かつてのぼくは寂れた街に、そして何よりここに住むおとなたちに侮蔑的な感情を持っていて 酒は身体に悪いから、脳の発育を遅らせるから…

ほしのにんぎょひめ 10項

ぼくはまず、どちらに行けばよいのだろうと半刻ほど思索を巡らせたが 思いついたのは より危険な方は後回し、 たったそれだけのことであった なんとも情けない気がするけれども これがぼくの精一杯なのであった。 鮮烈な記憶が血肉を与えられて再び息を吹き…

ほしのにんぎょひめ 9項

酒場の雰囲気はなごやかそのもので ぼくが図書館に所蔵されているという本に興味を持つのも当然のことだった。 だが、それらしい本は見当たらないばかりか 司書の人に聞いてみてもそのような本は存在しない、の一点張りでまともに取り合ってはくれないのだっ…

ほしのにんぎょひめ 8項

「まあ要するに、泊まるところがないならここに好きなだけ居座るといいってことだ。」 「…どうして見ず知らずのぼくを?」 「どう見ても物盗りをするようなやつじゃないし、何よりも気に入った、ってことさ、他に理由なんてないな」 「ちょうど席も空いてる…

ほしのにんぎょひめ 7項

「さて、アンデルセンの人魚姫は、本来は人と会う事のない人魚姫が難破船で漂流した王子を助けた事によってある種悲劇的な最後を迎える話なわけだが ここの伝承にある人魚姫は少し違うんだ」 「最後は思いを遂げることのできなかった人魚姫が海に身を投じて…

ほしのにんぎょひめ 6項

「さて、どこから話そうか」 店主は言うなり銀盆の上に置かれたままのジッポーを手に取ると、空いた手で胸ポケットから煙草を取り出して火を点けた。 銘柄は分からない、そもそもぼくは煙草を嗜む趣味はないので検討もつかないのであった。 店主は満足そうに…