多感作用と誰が為の共感

萊草唳の創作雑記

ほしのにんぎょひめ Beim Abschied

彼女から聞かされた人魚姫の伝承によると

度重なる嵐にが原因で漁村であったこの街が存続の危機に見舞われた時に

村の長がある日これは人魚の仕業であるというお触れを出し

その怒りを鎮める為に松明の灯を絶えず灯し続け時には生贄を差しだすような事もあったらしいが

かといって犠牲者を祭った神社はないとのことでたしかなことはわからない、とも言われたのだった。

そして祀り事はすべて男性の手によって行われるので、これが伝承の全てであるとは限らないとも言われてしまったのだった

他に知ってる事はないのか、と聞く度に彼女はとても悲しそうな顔をするのでそれきり聞く事も出来ないままでいたのだった。

 

そして、気になる事はもう一つあった。

ここ近辺の住宅はほとんど空き家で、また彼女の家の持ち物だという話を聞いた通り当初は人気のない酷く静かな所であったのに

どうも最近人の声や、近くで何人かが寄り合って話をする声が聞こえてくるのであった。

自分の後をつけてこちらに来たんじゃないか、もしかすると彼女が何か向こうに話を持ちかけてこちらにやってきたんじゃないか、などといった

そんな嫌な考えが駆け巡ってどうにもここからすぐに立ち去りたいと思いながらも

彼女の来訪を心待ちにしている自分がいるのも事実だった。

そして明日には、明後日にはもう会えなくなるんじゃないかと思うと居ても経ってもいられなくなるのだった。

しかし、彼女の住んでいるところを知らないし、そしてそれを聞いてしまえば二度と会えなくなってしまうような気さえしてくるのだった。

努力はしていたが、振り払おうとしてもどこか尾を引いて纏わりついてくる不安が

そして家の周りをうろつく人の声が、

それらを眺める事しか出来ない自分の不甲斐なさが

彼女の来訪で全てが打ち消されてしまうのであった。

だけれども、日ごと表情を曇らせていく彼女はどんな話をしても表情を綻ばせることは少なくなっていき

さらにはどこかよそよそしい雰囲気を醸し出し始めているのであった。

 虫よけにもなるからと、渡されていた蝋燭の明かりはくすぶり始めとうに尽きかけていた。