ぷいぷい館の殺人

……そして、モルカーたちの渋滞はより一層の混迷を迎えようとしていた。

モルカーたちの連なりが徐々に増えはじめた。

時計を見るニンゲンの表情はわずかに曇りはじめている。

モルカーたちはモルモットのくるまである。モルカーたちは日々ニンゲンたちに可愛がられ、思いのままにぷいぷいしてぷいぷいを謳歌していた。モルカーたちの群れがより一層の重なりを増している。黒々としたつぶらな瞳と、ちっちゃくて、ふわふわとした4つの車輪。……

モルカーとモルカー、ぷいぷいとぷいぷいが奏でるぷいぷいとした喧騒に包まれた、長い一列。

前方のモルカーはというとクラブミュージック、オーナーのニンゲンはインスタライブに夢中でどこ吹く風、すでに起こっていたいくつかの出来事は、彼らの心を不穏なぷいぷいへと煽り立てるに十分はかかるだろう。いや尺が足りないぷいぷい。

後方からやってきた白いモルカー。

病院へと急がねばならず、迫るタイムリミット。

およそ緊急を要するといった状況で、患者のもとに寄り添う一人の男。

だがしかし、行く川の流れは絶えずぷいぷいして、元のぷいぷいを取り戻すにはあまりにも連なってしまっているのだった。

ぷいぷいに翻弄された、ぷいぷいたちの、ぷいぷいによる、ぷいぷいのためのぷいぷいの始まりーー。

その時になってようやく、渋滞によって起こった"ぷいぷい"はそのぷいぷいな最終形をニンゲンたちの前に露わにしたのである。

……患者は結局死んだ、患者を殺したのは果たしていったい誰なのだろうか……

 

 

おおくのしまじま、うさぎ島

かつて地図から消し取られた島があった。

砂のけしゴムでざりざりと削られたその島には、

マスタードのガスが充満していた。

そこで働く人は、ようやく制服が着慣れたころの、

若い人たちばかりで

何を作っているのかも分からず

ただ、言われるがままに作っていた。

かつての若い人たちが、おじいさん、おばあさんになったころ

めいめいが止まらない咳や、へたすると酸素のボンベを引きずって歩く羽目になってしまったのだった。

それを近くの病院のお医者さんがなんとか助けたいという思いから、

治療したり、周りにいっしょうけんめいに訴えかけるなどしていた。

思いは灰色のコンクリートのひとびとの心を穿ちはじめたが、時は経ちすぎていたのだった。

おおくのしまじま、ただのうみ

今、その島にはうさぎがいて、

夾竹桃咲き誇るさなかをぴょんこ、ぴょんこと駆けめぐっている。

静かに佇む、写真館、壁を黒く焼かれた痕跡は

砂のけしゴムでざりざりと削り取られてしまうかのよう。

さざなみに耳をすますうさぎは識っている

おおくのしまに眠る、その声を。

 

 

したをだしたいじん

かがくはちからだ、あっとうてきだ

はがねのぼでぃにありったけのちからをつめこんで

かがくはちからだ。あっ、とうてきだ

すべてをおおいつくすよな、ねつのひかりがつつみこむ

かがくはちからだ、あっとうてきだ

すべてのちからをうばわれて、なめくじみたいにいじけてる

かがくはちからだ。あっ、とうとうてきだ

そらからまかれるしろいこな、てんてんときずあとをのこす

かがくはちからだ。あっ、とうとう、てきだった。

かれただいちをいやすのも、またかがくのちからだ

かがくはちからだ。やっぱりてきだ。

数字にありったけの思いをつめこんで、重い、想いをさくれつさせて

かがくはちからだ。あっとうてきだ。

わたしたちはわすれない。その意思を石にしっかりときざみこんで。

かがくはちからだ。あっどういう出来だ?

つぎの世代にバトンを渡して

科学は力だ。圧倒敵だ。

全ての想いを飲み込んで、私達は新たなはじまりを迎える。

 

 

 

ちゃいろいおべんとう

おれはちゃいろいおべんとう

地味こそ滋味だ

心臓だけは真っ赤なプチトマトで出来ている

いっしょうけんめいのなれの果て

ふたが開けられるのをじっとまっている

腹時計のなる音に耳をすまして

さあ今日も顔をほころばせて

きみが口いっぱいほおばるのを眺めている

でもさー

熱いハートは伝わらなくて

いっつもいっつも

残された、この、熱いハート

空の弁当箱で心臓がコロンコロンとゆれている

滋味こそ、地味だ

 

そういうものだ

 

 

 

拝啓、旅をする木

アラスカのおおかみ

ずっと眺めていた、海の向こう岸

ずっと眺めていたかった

切り立った崖に深く、深く切り刻まれたクレバスのむこう

その先を見るなら、今しかない

…そう、今しかないのだ

犬かきで冷たい海を泳ぐ

その冷たさに思わず目が眩みそうになるが

まだ大丈夫

まだいける

切り立った崖におりるのに、遠回りまでして

高い、高い崖をじりり、じりりとのぼっていく

そうして切り立つ崖のクレバスの麓に着いた

おぼつかない足取りでそろり、そろりと

クレバスを潜っていく

そうして身体が悲鳴をあげるか、あげないか

やっと着いた

 

駆け出したい気持ちを、抑えて

いや、もう限界だ

 

ぼくはそっとあの憧れた、焦がれた雪原に

足跡一つ遺す

 

ぼくは、これでもう満足だ

 

 

 

 

 

シノアリス二次創作「グレーテルくんと時間ウサギ」

「…時間!…時間!!…時間だーッッッ皆ー!起きてるかーッッッ!?!?」

クロックラビットはいつも時間に厳しい。

とは言うものの、口を酸っぱくして言い含めないと他のギルメンの出席率は半減、ギルドマスターである[時を駆ける公僕]のアリスはもう匙を投げているし、相方としてギルドの運営を担っている人魚姫は諦めムードといった面持ちで、毎日のように「哀しい…」というのが習わしになっている。

いばら姫は、「あと五分…」と言いながら、なんだかんだ理由をつけては寝落ちをするのだが、最後の5分だけ本気を出してギルドの勝利に貢献したりなどするので、解雇を言い渡すのも難しい。スノウは、ギルドの会話チャットに参加してるんだかしてないんだか、といった体たらくで、コロシアムチャットの時だけ、毎回ツッコミに困るシュールな一言を残してその日の会話が終わるのだった。もちろん出席の連絡なんて寄越して来ない。グレーテルは…真面目と言えば真面目だ、しかしながら、一番不可思議な奴で、まるで何かに取り憑かれたかのように几帳面な連絡を寄越してくる。連絡自体は有り難いのだが、連絡をしなかった理由までくどくどと並び立てて謝るのだった、正直、煩わしい。

そんなある日、事件が起きた。

ホワイトデーのさなか、突然、グレーテルがグレーテルくんになったのだ。

青天の霹靂だった。グレーテルくんになったグレーテルは、あれから打って変わって、適切な時に、適切な連絡しか寄越してこないようになった。どうしてグレーテルがグレーテルくんになったのか、本人に問い合わせると、理想のお兄様を追い求めるあまり、じゃあ自分が理想のお兄様を演じればいいんじゃないかと思い至ったので、今ではそうしているのだという話だった。有り難くはある、…だがしかしそれで良いのだろうか?アリスに聞いてみる。

「本人がそれでいいと思うのなら良いんじゃないの」

…出た!ザ·放任発言!実質管理しているのは僕らなのに!またもや僕らに丸投げだ。…しかしながら管理する側から見ればまさに理想といった感じで、ほかでもない僕だけがそれに違和感を抱いているのだった。

あくる日僕はグレーテルくんになってしまったグレーテルにこう伝えるのだった。

「君が理想を演じることはひとまず置いといて、君はそれによって何を得たいのかい?」

グレーテルくんになったグレーテルはたいそう面食らったような顔になってやがて恥ずかしそうにこう告げるのだった。

「皆が皆、目的を同じくして集ってるとは限らない、でもあえて理想を示すことで何かが変わればいいと思った。…でも私が間違っていたのね」

かくして、グレーテルくんは元のグレーテルに元通り、結局ギルドの面々も特に変わったようなところは一つもない。相変わらずギルドの運営には問題が山積みだ。…でも

 

ま、いっか!!

 

 

 

 

 

 

 

箱庭の回旋曲 op.1

ファミ通文庫版 『彗星のガルガンティア』各巻 

ニトロプラス版 『彗星のガルガンティア 少年と巨人』 の設定に準拠しています。また本編に関する重要なネタバレも含まれています。

理性と本能の抗争という印象を受けたので、レドが漂着したガルガンディアが理性と本能以外に存在する何かを学ぶ場(まあ地球)だったということに救いがあったのかなと

 

 

◇◇◇

 

ーーー繁栄セヨ、選別セヨ、選択セヨ

 数多の犠牲は人類の揺るぎない繁栄の礎となるのだ

ーーー統制セヨ、調整セヨ、管理セヨ

 恐れることはない、ただ、敵を憎め、屠るための武器を手に取るのだ、さあ、今すぐ

ーーータダ、食ライ尽クセ、本能ノママニ

「敵」を殲滅すること、我ら宇宙に属する生命の永遠なる繁栄のために

―――私ハ、私ヲ否定シテキタモノ、スベテヲ包含スル、タダ、唯一ノ…

これは、「夢」なのだろうか?

シミュレーターシートが見せる、「夢」とはまた異なる、生々しいまでの悲しみがそこにはあった。ーーーこれは通信記録だ、一人きりのコクピットの中で、最期の最期まで己を鼓舞し虚空へと散っていった兵士たちの…

静かに頬を伝う雫を拭いながら、ロンドは長考する。

数多の咆哮をかき集めた、ほんの僅かな希望だったものたち、果たされることのなかった、願いと―――――ヒディアーズたちの底なしの悪意だ。

終わりなき闘争の中に、永遠の繁栄を約束する何かがあるとは、思えない

これをぼくに見せて、いったいシステムというのは何を考えているのだろうか、滅びに対する抗い、これがシステムの根幹なのだとすれば、「人類銀河同盟」というのは既に形骸化し、現存する資力から僅かばかりの抵抗を見出していくだけの存在、つまりは人類はヒディアーズにとうの昔に敗北していた、とも考えることが出来るのだった。

 

ずらりと並んだ、マシンキャリバーを眺めるのが密かな楽しみだった。

 

事実、この世界には体の不調に対応するだけの医療技術は持ち合わせていても、疾患に対する知識、それに割かれるであろう人的リソースは存在していない。「ぼくたち」は群像であり、それから外れた「ぼく」のような人間は代替可能なパーツの一部として速やかに排除される。

ある日、整備場に潜り込んだとき、一体のマシンキャリバーに、生々しいヒディアーズとの闘いの痕跡を見つけたのだった。

コクピット部まで食い込まんとする、ヒディアーズの爪の鋭さに思わずぼくは魅了され、組織片がついたままの爪を、持ち去ったのだった。カプセルに入りそれを眺めていると

ー人体の損傷が認められます、危険レベル赤

ただちに治療を開始しますか?それとも…

突然鳴った警報に驚きながらも速やかに、デバイスを立ち上げシステムを停止させる。中枢に情報が届く前には食い止められたか…

一瞬ひやりとさせられたが、現在起きた状況の方に意識をめぐらせる。

「人体」に反応する銀河同盟のシステム機構にエラーが生じてないからこその、この反応…だとすると理由はただひとつ

…ヒディアーズは、ヒトのもう一つの姿…

腑に落ちた。

だからこそ銀河同盟はヒディアーズを目の敵にするのだということ。そしてぼくはヒディアーズに少しだけ憧れていたその気持ちの所在が…そうだ、ぼくは人ならざるものに焦がれていたのでは無かったのだった。そんな自分に少しだけ安心した。

度重なるヒディアーズに関する情報に触れた時も憎しみは感じていなかった、きっと 「兵士」となるだけの資質を持ち合わせている人たちには呼応するだけの威力はあるのだろうし、実際のところ効果は抜群だ。

ぼくは呼応出来ないことに悲しみを感じていた、しかしそれをヒディアーズに対する憧れによって帳消しにしようとした。

けれども、本当は、それは彼らのような将来が待っているわけではないということを、気づいていたからだ、そして彼らと同じ思いが共有出来ないことが寂しいからだ。

ぼくは身も心も弱い人間だ、ということだけは知っている。

 だからこそ…

「…また、あいつか」

誰かの弱々しげな、悲鳴とも言えない声が聞こえる。

過激であることが、他より抜きんでいることの証左なのだと思い込んでいるのであれば、それは大きな間違いだ。思想は植え付けられたものに過ぎず、自分の考えに因って、の全てがシステムの思い通りだということに気づいていないのだった。力さえ手に入れば、システムから守られる存在になれる、それは全くの勘違いであるということに彼はまだ気づいていない。

容易に告発者によって排除が可能なこの世界においては、信用などといったものは存在しない。恐怖による刷り込みも、別の世界が存在している、と気づくことによって

ここで生きていくしかないといった諦めの中で日々を繰り返すだけの世界ではなくなってしまうからだ。

「彼」は出世するのかもしれない、…死んでいくぼくと正反対に、

けれどもぼくはやがてシステムの本幹に迫ることで逃れられない絶望に直面するであろう「彼」が、なけなしの虚栄心で弁を奮うだけの「人形」となることを予め予告しておく。…もしも「彼」がたった一人でこの世界に挑むつもりであれば、のことだけども。

ぼくは君の思うとおりに動くことは決してないし、ぼくは、ぼくが思う最良は何であるかを追求していくだろう。

他人を守る強い意志は持ち合わせていても、他人の悪意には決して気づくことのない、お人よしな…

ーーいずれは国家を守るための盾の一部として、命を散らしてしまうであろう、…そうだ「彼」のために!!

ーーーーこの世界は歪んでいる、そうしてぼくは離反への一歩を歩みだす。世界に必要ないと、切り捨てられるまでの僅かばかりの抵抗に過ぎないのだけれども。

 選別システム自体から、「彼」を徐々にではあるけれども切り離していくことで、ぼくの願いのすべては叶いそうな…そんな希望と、彼なら分かってくれる、という淡い思い込みを糧にして。僕は誰に知られずともその生を真っ当に生きていくと決めたのだから。

 

◇◇◇

 

 ロンド、彼に対する考察について

 

選別される世界においては、個体の特性は情動ではなく、行動様式によってカテゴライズされる。システムに適合しているか、しないか、

いずれのカテゴリーにも適合性が無く、システムそのものに多大な影響を与える可能性のあるものーーーーーーそれを’異端’とカテゴライズする

 ロンド、彼は全く以ての異端な人間であり

それが彼をシステムに守られた存在とし、逆に速やかに排除され得る存在でもあった。

大いなる繁栄、に関する彼の考察は素晴らしい、けれどもヒディアーズに対する思い…

それは到底ユルサレルモノデハナイ…