多感作用と誰が為の共感

萊草唳の創作雑記

ほしのにんぎょひめ Das Mädchen spricht

 街を転々とし始めてしばらく経ってから分かったのは一つ

その街の図書館、本屋に行けばだいたいの事が分かるという事だ

いつものようにこの寂れた街にはひどく不似合いにも見える図書館に足を運ぶ

人は居らず、司書は退屈そうに肘をついてどこか不満顔で椅子に座っている。

机には読んだあとの雑誌があちこちに見えるのに、じっと腕を組んで時計を睨んでいるのだ。

煌びやかな外装とは裏腹にひどいとしか言いようのない有様であった。

溜息をついて図書館を後にする、ここに長居しても期待できるような物には出会ないだろう

酒場の佇まいはというと、なんだか昼から人がいるらしく

しわがれた怒号も聞こえてくる酷い有様であったのだった

ただ入江だけは美しく、また近くの洞窟には昼でも松明が灯され幻想的な雰囲気を醸し出していたのであった。

酒も無く、本も無い

ただ風景だけが美しいのであった

ごつごつした岩に腰掛けて洞窟の方を眺めていると少女がひとり、

 

「あら、あなた おしえて、これはいつからあった話なのか

 それとも話しているうちにだれかが作り変えてしまったのか

 どこでその話を聞いたの?

 あなたも

 この話に夢中になったうちの一人でしょう?

 教えてよ、その内容を

 教えてよ、誰が喋っているのか

 どうして酒場に昼間から?

 そうか、あなたもしかしてこの町にきたばかりなのね?」

 

「…言いたい事は分かった、だが、俺にも喋らせてはくれないのか

 まず、その君が知りたがっている話というのを俺は知らない」