「さて、どこから話そうか」
店主は言うなり銀盆の上に置かれたままのジッポーを手に取ると、空いた手で胸ポケットから煙草を取り出して火を点けた。
銘柄は分からない、そもそもぼくは煙草を嗜む趣味はないので検討もつかないのであった。
店主は満足そうに煙を吐き出すとそのままゆっくりとした動作で三人の座るテーブルについたのだった。
三人の方を見ると、ビールジョッキの男はすでにテーブルに突っ伏して寝ているし、
マグカップの男はこちらの視線に気づくと軽く会釈を返してくれ、これから始まる話に期待を膨らませているような面持ちであった。人魚姫伝説には何か特別な思いいれでもあるのだろうといったところである。
ショットグラスの男はどこ吹く風といったところで事の成り行きには興味がないらしい。
「ここにはいつ迄滞在するつもりだい?」
「ぼくの気の済む迄」
「そうか、」
「宿は」
「基本、野宿だ。」
「面白いやつだな、泊めて下さいとも言わないんだな」