多感作用と誰が為の共感

萊草唳の創作雑記

ほしのにんぎょひめ Der Jäger   

父は何か懸念事があると決まってレコードに針を落とす

今日は、

 "Der Jäger" Johannes Brahms Op. 95

を、

頑迷そのものである父が好む音楽はどこか華やかで

そして楽しげである

聞く曲は父がいつも選ぶが、曲をかけるのはいつも決まって私である、

かつては母のやっていた仕事であった。

私は与えられた仕事をただ、いつものように繰り返すだけ

 

父はというと

まるで、何かを思い出すかのようにじっと瞼を閉じて

ただ聞いているのであった

豪華な作りの図書館は彼が命じて作らせたものであった

辺りにある家は、住む人がいないまま随分時が経ってしまった。

酒場だけがただ、賑やかであった。

「…今日もまた何処かに行くのか」

「…はい」

父に対するささやかな抵抗である。

行先は告げない。

「…今年の御神酒の準備は」

父はいつも仕事の事しか聞いてこない

「…滞りなく。」

それさえ守れば十分なのだ。…きっと。