アラスカのおおかみ
ずっと眺めていた、海の向こう岸
ずっと眺めていたかった
切り立った崖に深く、深く切り刻まれたクレバスのむこう
その先を見るなら、今しかない
…そう、今しかないのだ
犬かきで冷たい海を泳ぐ
その冷たさに思わず目が眩みそうになるが
まだ大丈夫
まだいける
切り立った崖におりるのに、遠回りまでして
高い、高い崖をじりり、じりりとのぼっていく
そうして切り立つ崖のクレバスの麓に着いた
おぼつかない足取りでそろり、そろりと
クレバスを潜っていく
そうして身体が悲鳴をあげるか、あげないか
やっと着いた
駆け出したい気持ちを、抑えて
いや、もう限界だ
ぼくはそっとあの憧れた、焦がれた雪原に
足跡一つ遺す
ぼくは、これでもう満足だ