多感作用と誰が為の共感

萊草唳の創作雑記

ほしのにんぎょひめ 紅穿つ

晒し去らせや曼珠沙華

しほたる雫に来しむ声

晒し晒せど尽きもせず

酔いも巡る宵闇の

其処彼処に帰し方来方

あれ見やるに畝掘り田掘り

死をやる涙はせんかたなく

 

紅拡がりて見知らぬ気色

拓けや拓け

興せや興せ

しほたる雫は一時なりやと

声聞こえる

拓けや拓け

晒せや晒せ

 

晒し去らせや曼珠沙華

拡がる紅が追い出したるは

あれ見やるに背け花向け

酔いも醒めぬ宵闇の

其処彼処に手招き間引き

あれ見やるに水張り田掘り

紅発つ涙はせんかたなく

 

いつだって物言わぬ者から先に虐げられてきたのだ

今に伝わるこの歌がそれを教えてくれる

ならば今舞台に立つ自分はどうなのか、

与えられた役目を、ただ果たすのみである

生まれた時から決まっていた事ならばそれを甘んじて受け入れるしかないのである

他に何があろうと、これだけは守らなければ

また滞りなく行わなければならない事なのである

一歩進めば振り返り、二歩進めば睨みをきかせ、三歩進めば見栄をきる

観客はいない、自分との闘いである

ただ動きの精緻さだけを追求し、粛々と行うのが習わしである

洞窟の狭い道を進むのだが

外の様子は洞窟の中からは窺いしれないし、また、洞窟には使者となった人間しか入る事を許されないので

外の者共は彼岸と此岸を渡る使者となった遣いを待ち構えている

この時決して外にある松明の火が絶やされるような事があってはならないのだが

この年その禁を破った者が表れた事から綻びが、生じた

何も知らない、若者だった

そしてその稚拙な役者の企みが本懐を遂げる事も無かったのであった