多感作用と誰が為の共感

萊草唳の創作雑記

ほしのにんぎょひめ 存在しない筈の本

或る星売りのおはなし

「この街の伝承をしっているだろうか?

まあ、この街に来たばかりなら知らないだろう。こっちへ来て座ると良い。

いやあ、君はなんとも運が良いよ、驚異的な運の良さ

って言ってもいいくらいだ。

まあ人魚姫の涙ってのは…

お?気になる?でもこれは特別な人にしか手に入れる事の出来ない…

…まあそんな代物ってことだな、うん

俺?…俺は様々な所を旅してきた旅人。ってことくらいかな、言えるのは

…聞きたい?

そうかそうか、よし、教えてあげるよ

実は、俺は様々な所を旅してきたといっても場所が普通じゃないんだ

ほら、あそこに見える星がわかるか?

名前を教えてやるよ

ベテルギウスっていうんだ

いやー、大変だった。なんとも酷い場所だったよ

空気は薄いのになぜか光る星の方へ身体が引っ張られるんだ

ガス状の霧は遠くから見れば綺麗だけど

…あそこはセーターを着ていくべき場所じゃないね

パチっと音がする度にいちいちセーターが燃えないか

始終神経を尖らせてないといけない

恐ろしい所だったよ

でも、あたりを漂うふわふわとしたガス雲は

思わず綿あめにして食っちまいたいくらいだったよ

なんでそんなことが出来たかって?

それは人魚姫の涙を手に入れたからさ

もし方法が知りたいのなら教えてやるよ

…どうだ?酒場にでも行って話そう」

 

 

 

 

 

かのように強欲なものは自身のありもしない経験を

存在しない筈のものを意気揚々と語って見せるのである

 

この、最後の文言だけは何者かの手によって消されていた。