多感作用と誰が為の共感

萊草唳の創作雑記

ほしのにんぎょひめ 2項

 「おっ見かけない顔だな」

_______声をかけられた瞬間ぼくはしまった、と思った

旅慣れてはいるものの精悍さからは程遠い体つきのぼくはよくこう声を掛けられては人目のつかない路地へと無理やり連れて行かれそうになるのだった。あまりにもそのような目に遭う事が多いので自分を守る為にこんなやつからお金を毟り取るのは惨めだと思わせるようなくだびれた格好をする以外に対処法はなかった。

 それでもぼくは少しばかり酒を嗜む趣味があったので酒場に入るときだけはすこしだけ身形を整えるようにしている、流石に浮浪者同然の佇まいで入るのは忍びないからだ。

だからこそ、しまったと思ったのだ

街の治安も良さそうだし、久しぶりに酒場の門をくぐるのも悪くはない、そう思っていたのに、

にやにやしながらそのうちの一人が近づいてくる

ぼくは覚悟を決めて目をつぶる事もせず、ただ突っ立ってその時を待つ事にした。経験上目をつぶってしまうともし向こうが殴りかかって来た時に受け身をとって被害を最小限に抑える事が難しくなるからである。何が何でもそれだけは避けなければいけない。

 

「お前、ひょっとしてこの町の人魚姫の伝承を聞いてここに来たのか?」

「………へ?」

まだ、殴られやしないかと内心身を固くしてびくびくしていたぼくはなんとも素っ頓狂な声をあげてしまった、恥ずかしさに思わず俯いてしまう。元々この町に来た理由は特になかったので周章狼狽するほかなかった。

すると集団はいよいよにやにやし始めて

 「そうかー知らないのか、久しぶりだなこういうの」

「ああ」

「どこから話す?」

「いや、そこはまずオーソドックスにいった方がいいだろ、初心者さんには、な」

「だな」

と、ぼくを完全に置き去りにした形で盛り上がるひとたち

とりあえず、最初に想定していた最悪の事態は避けられそうだ。人懐こそうな赤ら顔の集団は酒場の少し奥の方に陣取っていたがどうやらそこが定位置らしかった、なるほどここなら酒場を見渡すのに丁度良いし、そして厨房からの距離も近かった

すると予想してた通り酒場の主人がやってきて 「何やら、初心者さんのお出ましというなら俺が説明する他はないと」 なにやらもったいぶったような非常に芝居がかった仕草でやってきた 一体なんなんだ、この町は