ここは銀河研究所

8000字を目標にして書いた話、選考は落ちたのでここに書き残すこととする。

 

59、58、57、56…

おかしい、時計の針はちっとも早く動いてはくれない。しかめっ面でにらめっこ

「机のうえにひじをついちゃいけません、頬杖もダメ。」

ママはそういうのだけど、仕方ないじゃない。こんな時は針が随分ゆっくり動くのね、どうしてなのかなぁと思っていると3、2、1… 

―――あ、時間だ。

「ママー時間になったよ!じ、か、ん!」

「はいはい、焦らない。」

ことり、机に置かれたポットはほんのりと温かく、人数分とほんの少しの気持ち分だけの葉っぱが、大きな口へさらさらと注がれていく。そこへお湯を注いでいくと葉っぱはなんだか嬉しそうで、ゆるゆるとほどけていきながら中で踊っているのだった。

そして、飴色に変化したお湯をカップへ注ぐと、ぷんといい匂いがしてくる。

「青い色したお花が入っていたのに、青色にはならないの?」

「でも、良い香りがするでしょう」

「そうだね!…あ、お砂糖は?」

「ひとさじぶん」

「そして…「「ミルクも」」でしょう?」

二人の声が重なって、ママの顔を見るとママも笑ってる。なんてことのないおまじないのようなもの、今日も大成功だ。

「お菓子は?」と聞くとママは戸棚から何かを取り出してきて

「今日はね…フォーチュンクッキーっていうの、中に紙が入っているから気をつけてね。」と机の上に並べるのだった。

それを手に取り、中を割ってみると小さく折りたたまれた紙が入っていた。開かずそのままポケットにしまい込むとクッキーを口に放り込んだ。優しい甘さと香ばしい匂いが口いっぱいに広がってなんだか幸せだ。今日のおやつもやっぱり素敵だな、と時計の近くにある戸棚を見る。不思議なことにお菓子が入っているはずの戸棚を開けても空っぽで、3時のおやつの時間まで秘密のままなのだった。

一番きらいなのが、時計とにらめっこしている時で、

一番すきなのが、ママと顔を見合わせていつものおまじないをしている時、

お菓子の名前を聞くのも楽しくて、サクッとした生地に包まれたリンゴのお菓子パスティス、スパイス香るレイヤーケーキ、真っ黒い芥子の実の挟まったモーンクーヘン、レモンがアクセントのバクラヴァ、クルミの入ったジート、見たことがないくらい大きなパイのガタ、レモンとミントのジブラルタルキャンディ、ハチミツ味のメドヴィク、みんながみんなママとの大事な思い出で詰まってる。

 

 

そしてなんてことのない事でも気持ちに名前を付けてみるんだ。こんな気持ちの時はそう、しゃりしゃりした食感の細長いジェリービーンズ、甘くて、とてもいい香りのするお菓子はこんな気分にぴったりだ。

「何もかもが簡単に手に入るようで、でも、実はそうではなくて

…だから私は探し続けるのよ。あなたの笑顔が見たいから」

ママは静かに呟いた。ママは時々むつかしいことを言うのだった。だってママはいつもすごく楽しそうで、ママの寂しそうにするその気持ちがどこから来るのか、私にはわからないのだった。お茶の時間が終わるとママは決まってお出かけするのだった。

部屋には私だけ。さあ、深呼吸して、何をしようか?

少しだけ広くなったようにも思える部屋の片隅には本棚があって、ずらっと並んだ本は、それぞれが分厚い表紙に包まれていた。しばらく見かけないうちに埃がうっすらと被ってしまっていたので、ぱたぱたと払って元の棚に戻す。そうするとさっきまでため息をついていたようにも見える本がなんだか嬉しそうにしていた。

風がさあ、と吹いてきて開け放たれた窓の方を見る。明るいなあ、と思わず目を細める。

「きっと、眩しすぎるんだよ。…私には」

と呟くと、無性に悲しくなって、背を向けた。

そうして、本に向き合って再びぱたぱたと埃を払いはじめると、はらり、と隙間からカードがこぼれ落ちたのだった。触ると少しひんやりとして、透かし模様と銀の箔で飾られた文字をそっと撫でると異国の薫りがした。…悲しくなるほど綺麗だった。

しばらく眺めていると、突然

「こんにちは」という声がした。

後ろを振り返ると何時の間にか背の高い男が立っていた。襟の縁取りが金色をした燕尾服を着ていて、黒い靴はつやつやと輝いている。まさに新品そのもの、という感じだ。

「名前は?」やっとの思いで声を出してみる。

「そうだね…ベテルギウス、とでも名乗っておこうか」

そういうとポケットから眼鏡を取り出して、ぱきっとつるを折っていつの間にかに机に置かれている見慣れないカップに浸してひとまわし。ぷくぷくと音を立て揺れる茶色い液体は、少し薬っぽい、鼻に抜けるような少し辛みを感じさせる匂いが漂っていた。そしてほんのり甘い匂いは嗅いだことのある匂いに似ていた。

「それは、何ていう飲み物なの?」

私が聞くと、男は帽子を被りなおして少し眉根を寄せた。すると、折れていたはずのつるは元通りになって、彼のポケットに収まっていた。

「これはね、ホットチョコレートというんだ。卵とスパイス…そして、ほんの少しの好奇心で出来ているんだ。」

 

「そう…ありがとう。でも、あなたはどうしてここに居るの?」

すると男は頭を振って

「何もかもが簡単にわかるようで、実のところ、わからないことだらけなんだ。

ぼくは調べ方を知っている。けれどもそれは人に教えて身につくようなものじゃない、自分で掴み取るものなんだ。…でもね、誰もがその方法だけを人に教えたがる、果たしてそれは本当に『正しい』ことなのだろうか?」

「…あなたの言うことはわからない、でもね、わからないということだけは分かるのよ。」

「そう!それが『正しい』ってことなんだ。」

「あなたってふしぎ、ね」

いつの間にか、少しだけあった壁のようなものはなくなっていた。もちろん目には見えないものだ。

「君は、いっとう特別なんだ。だからこうしてぼくに会うことが出来た」

「…なぜ?」

「そのカード、君にとってはなんてことないかもしれないけれど…ぼくにとっては大事なそれを、見つけてくれたからかな。」

「でも、何が書いているのかは分からない。それでも…?」

「さあ、ぼくについて来て。」

差し伸べられた手を掴んだその瞬間、彼の袖口から銀色の液体がこぼれだしていく。

水たまりとなったそれはみるみる部屋のすみいっぱいまで広がると、壁を上りはじめ、やがてあたりを覆い尽くしてしまった。そしてぐわんと景色を揺らしたかと思うと真っ暗になって、あたりはもうすっかり、さっきまでいたはずの部屋ではなくなってしまっていた。

「ここは…どこなの?」

なにも見えない、なにも聞こえない。ただただ、底なしの、浮かんでるとも沈んでるとも分からない、ふしぎな、不思議な場所だった。

「これが、宇宙だ。今、君は宇宙に居るんだ」

「どうして?…どうやって?」

「うーん、ぼくはこの銀河に住んでいて研究をしているんだ。そのカードにも書かれてるけど、ぼくは助手を探していてね、君がなってくれたらいいんだけど」

「…それはまだわからないけど、考えておく。」

「じゃあ、紹介をかねてあたりを歩いてみよう!銀河にはいろんな生き物がいてね、きっと気に入ると思うよ」

そういってベテルギウスは前へ進んでいく。いや、進んでいく方向が前なのだ。ベテルギウスはうっすらと赤く輝いていて見失うことはないのだけれども、あたりをすっかり照らしてしまうほどの光はないのだった。

 

「もう少し前に来てくれれば、明るく照らすこともできたのだけど…」

とつぶやくベテルギウスの歩く速度に変化はないような気がするのに、距離だけはいつの間にかに開いてしまったり、縮まったりしている。もっとふしぎなのが、走るとより一層距離が広がって、歩くと距離が縮まって、でも立ち止まってしまうと、何故かベテルギウスよりも前の方で私が歩いているのだ。そんなことをしばらく続けているうちに、ベテルギウスが立ち止まった。何も変わったことは起こらず、傍まで近寄ることもできた。

「着いたよ。」

あたりを見わたすと、キラキラとした光の粉が散らばっていた。

「そうら、手を開いてご覧」

言われたとおりにしてみると、ふわんとミントのようなすうっとした匂いがしてきて、ぼおっと鈍く光る丸い形をしたものが、ゆうらゆらと揺れながら近づいてきたのだった。

明かりが近づいてきて、手のひらに乗っかったとたんにふっと光をうしなって、砂糖のかかった飴玉に姿を変えたのだった。それを口に放り込むと、最初は冷たくひやりとした感触だったのが、ピリリとした刺激とともにじんわりとした暖かさがやってきた。

「…不思議な味ね。」

「捕まえようとしても決して捕まることはないんだ、そう、そのままじっと待っていれば、必ずやってくる」

気付けば、金色の細かな砂はまるで川のような流れを作っていて、ピンクや黄緑色の丸い光があたりをふわふわ、ゆらゆら漂っているのだった。

「さっきまでは何もなかったのに…どうして?」

「君がここに居るから」

彼は、パチンと指を鳴らすと、被っていた山高帽子の中からうさぎが出てきた。ふわふわとしたその毛の先のほうは薄く光り、パチパチと小さな音を立てていた。そうしてぴょんと跳ねて肩に飛び乗ったかと思うと宙に浮いたまま、金色に光る砂の流れには目もくれずに駆け出していった。

「追いかけよう」

「もう少しここにいたいのだけど…」

「ダメだよ。もう時間がきてしまった。」

ベテルギウスはそう言いながらポケットから取り出した懐中時計とにらめっこをしていた。

言われるがままに手を引かれ走ると、歩を進める度にふわっと浮いていってそのまま、流れに沿うかのように流れる川の上を走っていた。決して触れることの出来ないその流れはまるで空をかける金色の龍のよう。

「…ナクラか、あれは実に惜しい事をした」

再びベテルギウスが口を開くまでは何も言わない方がいいのかもしれないなと思うくらい、とても寂しそうで、悲しそうな顔をしていたのだった。

うさぎは前を走り続けている、もしかすると追いつく事なんてないのかもしれない。

そうするとうさぎを取り巻いていた光がだんだんと強くなっていって、うさぎはやがて真珠色の大きな鱗で覆われた、魚へと姿を変えていった。びっくりするのもつかの間、

「え…?足が重たくなってきた」

息は苦しくない。だけれども、からだぜんたいが、まるで水の中にいるかのようなゆったりとした重さをまとい、踏みしめる度にちりりと泡が立ちこめ、そして目の前にはきらきらとしたシャボン玉のような泡の群れが進む方向を中心として拡がっていった。

「まるで泡のトンネルみたい」

幾重にも連なった泡のトンネルから透けて見えるのは、ゆらゆらと揺れるクラゲの群れだった。足の長いクラゲ、くしがたのクラゲ、ネオンでふちどりされたダイヤ型のクラゲ

形は様々だったけど、皆が思い思いにゆったりと、浮いたり沈んだりを繰り返していた。

「…私が、何か言葉を出したり、…思いつくままに話しをすることで、他の誰かを傷つけてしまうかもしれない、それがとても怖かった。」

絞り出すようにしか声は出なかったけど、今まで言えなかったこと、誰かに聞いてもらいたかったこと、それが言えたような気がする。

こんなにも悲しそうな顔をしている人に言う事じゃないのかもしれないけれど。

「でも君は大事なことを知っているんだ。

君が思い通りに使うことのできる、その言葉の重みを、そして何を知っていて、何を知らないのかということを。

違いというのは何も特別なことではないんだよ、

皆が同じであることを良しとして、始終目を光らせるあまり、ただがむしゃらに何を知らないのか、それすら隠してしまおうとするから、それぞれの違いだけが輪郭を持ってくっきりと浮かび上がってくる、それだけのことなのさ。」

ザザ…ザザ…という音が聞こえてきた

「…そろそろ来るころだと思ってたよ」

数百の、いや数千の群れをなしてやってきたバッタの群れ

その群れの中で一匹、いや数匹だけは他のバッタと同じようにインク溜まりが出来たかのように全身が吸い込まれてしまうかのような黒さだったけど、羽だけは、わずかに縁取るかのように、キラキラとしたネオンのような光で輝いているのだった。

「大丈夫、さして危険なものではないよ、だから大丈夫。ただ…数が多いのは困りものだ。」

「私はどうすればいい?」

「近づいてくるかもしれないけれど、その時は、大きな声を上げないようにすれば大丈夫だ」

どんどん ザザ…ザザ…という音が大きくなっていく

「あの虫たちはなにをしてるの?何故、あんなにもたくさんの…」

ベテルギウスは何も言わず、上着の内ポケットから小さなガラス瓶を取り出していた。目を凝らして見てみると、中に入った透明の液体は、傾けるたんびにとろりとゆれて真珠のようになめらかな輝きを放っていた。

そして下の方に沈んでいる小さな丸い球から少しずつ泡が出てきていて、泡がはじけるたびに白く濁ったり、透明になったりを繰り返していた。

「瓶はきれいなのだけど、はやくしないとこっちに来ちゃう!」

「よし…、もう良い頃あいだな。」

と、ベテルギウスは慌てる素振りすらみせないまま瓶をただ眺めている。

いよいよ黒い塊のような群れがこっちに向かってくる。みっしりとかたまっていて、ぶつかったら一たまりもないだろう。

「ほら、もう大丈夫。見てご覧よ」

そう言うと、コルクで出来た蓋を外し、勢いよく放り投げた。瓶はくるくると回りながら中身をあたりへとばら撒いてそのままゆっくりと止まることなく進んでいく。

すると瓶を中心に拡がっていた、うすく透ける白い水たまりのような広がりが一瞬透明になりチリチリと小さな音を立てながら、すぐに薄ピンク色の羽衣のような透き通った帯が幾重にも連なって、あたりに拡がっていったと思うと、また見えなくなり、そして中心に光輝く白く丸みを帯びたものが浮かびあがってきた。

と思うと、そこに一斉に黒いバッタの群れが一斉に集まっていく

まるで強い磁石がそこにあるかのように、あるところからぴたりとみんながみんな方向を変えていき、大きなうねりとなったその群れはまるでそれそのものが一つの生き物のように大きな口を開けて、その小さな光を丸飲みした。

わしゃわしゃという音がしばらくしたかと思うと、光はだんだん勢いを失って、そして消えていった。

「あいつらは、光を食むんだ。自分で光ることが出来ないから、…そうして食らい尽くしてしまったらまた別の強い光を探しに移動を続ける。そういう生き物なんだ。」

「…でも光がないと」

「どうしたの?言ってごらん。」

「光がないと、そもそも暗いということも分からないものなのかもしれないなって、全部ではなかったけれど羽がほんの少し輝いていたバッタも居たんだもの。もっと輝きたくて、強い光を探しに行くのかもしれない。」

「…君みたいな考えの人もいるんだね。決して忘れてはいけないよ。」

「忘れしまうって、どういうこと?」

「それが『正しい』ということの恐ろしさでもあるんだ。そして僕は『正しい』とは何かを考え過ぎたのかもしれない。」

「疲れてしまったの?」

「…そうかもしれないね」

「でもふいに、正しさの本当のすがたというものが分かりかけてくることがあったんだ。ほら、こんな風に」

そう言うと人差し指だけ浮かせ、自分の顔よりも高く、上の方へと手を伸ばしていった。

するすると指の節に、靄が集まりはじめ、やがてそれは蝶の形へと姿を変えた。

「でも蝶はすぐに消えてしまうんだ。」

そう、こんな風に

人差し指を軽く跳ね上げると、蝶はゆるゆるとほどけていって再び靄のかたまりになり、そうして透明になり、あとかたも無く消えてしまった。

「だから耳で音を一音、一音聞き分けるように、言葉を研ぎ澄ましていって、心の中にある声を怖がらないで思うように書いてみるといい」

心の中にある声…。歩いてみても、この暗闇の中では足元も見えなければ、足音も聞こえてこない。いったいどうすればいいのだろう。とぼとぼと後ろをついていくことしかできないでいた。

「おや、どうやら着いたみたいだ。ここが僕の研究所だ。」

「うわぁ…見たことのないものばっかり」

気を持ち直して、辺りをきょろきょろ見わたしてみる。これは何?と聞くそのたびに、ベテルギウスは一つ一つ指さしながら丁寧に説明してくれた。

「これはエバポレーター、なんというか…古いものだから使うのにちょっとだけコツが必要でね」

そう言って丸底の茄子に似た形をした硝子瓶を取り出しながら、白く輝く真珠色の液体を流し込んでる。

「よっと、さっき一つ無駄にしてしまったけど、あーでも、…まあ仕方ない。」

慎重に器具にとりつけてスイッチをつけたとたん、機械はごうんごうんとものすごい音を出しながらも茄子型のガラス瓶だけは静かに回っていた。

「まあ、いいんださっきのは均一になっていなかったからどうせ、失敗していたかもしれないし、…いや待てよ。あるいは均一じゃない方が成功するのかな?」

何やら一人でわけのわからないことをぶつぶつと喋っている。

あんまりな様子を見て溜息をついたあと、ふと、壁に飾っている様々なものたちを眺めてみる。大きな地図に、壁に掛けられたたくさんの道具たち、ブリキで出来たかばん、二重のわっかがしまい込まれた大きな虫取り網、ぱんぱんに膨らんだリュックサック、そして色んな額縁が飾ってあるそのなかに、あの蝶に似たものを見つけた。

「…これは標本なんだ」

作業の手を止めてベテルギウスが喋り出す、

「ひょうほん?」

「この蝶は標本としてしか形を留めておくことは出来ないから。」

「消えてしまう前に、捕まえておけば大丈夫なんだ!」

「けれども、このように額縁に留めてしまったらそのものとしての姿を見ることは出来なくなってしまうんだ。思い出すことは出来てもね。」

「でも姿をみることは出来るじゃない。どうして新しい蝶を作りだそうとしたの?」

「…悲しまなくて済むからだよ」

「悲しいの?」

「羽がかけてしまったり、色あせてしまったり、それは避けられないことなんだ。でも…」

「…でも?」

「こうやって額に飾った蝶を眺めて、いつか巡り会えるかもしれない新しい蝶のことを考えていると、幸せなんだ。」

「新しい蝶を作り出すのは大変じゃないの?」

「そんなことはないよ、…いや作りだすのが楽しいと思えるから、ここにいるんだ」

こつこつと頬になにか当たってくる。

「あ、さっきの魚に似てる…」

ひゅっと尾っぽを翻して細かく彫り物がされた額縁へと飛び込んていく。

ちゃぽんと音を立てて水しぶきが散るのだけど、やがてゆるゆると元の額縁に収まって、元通りになるのだった。

「…外に出てみようか」

「いや、いいの。もう少し魚を眺めていたいし、私ここにずっと居たいって思うの」

するとポケットからかさり、という音が聞こえた。不思議に思って手を伸ばしてみると、

突然かたかたと額縁たちが揺れ始めた、魚たちも額縁から尾っぽを覗かせたり、ひっこめたりを繰り返している。そうしていくと、急にぐわんと風景が揺れ始めた。

「…おや、時間が来てしまった。君は、まだあちらでやるべきことがあるみたいだね。」

「そんなことない!だって…」

「ぼくは、いつまでも君のことを待ってるけど、どうして今はその時でないのか、君が一番よく知ってるだろう?」

という声とともに、景色は目まぐるしく変わっていく、巻き戻されたかのようにぐるぐる、ぐるぐると、そうして銀色の光に包まれると、いつのまにかに眠ってしまっていた。

目が覚めるといつもの部屋に居て、開いたままの本と、カードの代わりにしおりがページの中央に収まっていた。

「そういえば、あの紙は!?」

あわててポケットの中に入ったままの紙を取り出す。ママと食べたフォーチュンクッキーの、あの紙だ。

「楽しいものを探しに行こう!」

と書かれていて、その文字を指でそっとなぞった。