靄のなか

電車に揺られている。本を開いて顔を伏せ、ただ字を目で追っている。
直ぐに連なった電車は急な曲線にさしかかると、ぎしぎしと音を立てている。通路から見えていた景色が見えなくなる。トンネルを抜けると木の乏しいなんとも侘しい岩山がみえてくる、はずなのだが靄に包まれていた、そろそろと窓に垂れ込めてくるかのようなそれに思わず顔を上げ辺りを見渡す。私一人だけがそこにいて、この景色を見ている。ひやりとした不安がこみ上げてくる。本に目をやる、字が頭の中に入って来ない。二度目のトンネルにさしかかり、そしてまた電車はぎしぎしと音を立てて弧を描き始めた。トンネルを抜けた所で何も変わることなどないのだ、とただ辺りを見渡すだけでは何も得られるものなどないのだと独り言ちてみる。
トンネルを抜け、明るくなった車内は温かみを帯びていた。
靄が晴れると、車内はいつもの喧騒を取り戻していた、これが日常なのか
気づけばもう三年の月日が流れていた。