ほしのにんぎょひめ fight or flight

「お前か、なあ、お前だったんだろ
  伝承にあった巫女っていうのは
  何が望みなんだ」
松明はすぐに灯されたが
儀式が失敗に終わったのはこれが初めてだった
外で踊りを供していた人達も気にするなと言ってはくれるもののどこか笑顔が引きつっているのだった
茫然として岩場に腰掛けていた間も片付けは粛々と進み
今の今まで一人きりで海を眺めていたところに「それ」は現れたのだった
ウロコで覆われた、白くにぶく光る
人のような姿形をしながら決して人ではない
人魚姫という名前が似つかわしいような「それ」
「なあ、やっぱり儀式が失敗した事と何か関係があるんだろ?
俺はどうなってしまうんだ?
…やっぱり死ぬ、のか?」
「………」
少女は喋らない、
何故ならコエラカントゥスから言われたのは勿論、人間と決して言葉を交わさない事を心に決めていたから
また少女は沖に出てすぐ人間に会えた事に安堵してもいた
「俺だけならまだ良いんだ、
でも此岸と彼岸を結ぶのに必要なのは二人なんだ
もう一人はその役目を知らない、いや、知らない事が重要なんだ
だから、俺はあいつにあの酒場でまるで人魚姫の事なんか興味ないみたいに振舞って
あいつが儀式に必要な事全てを知ることがないよう見張っていなければならなかったんだ
けど、もうそれも意味ないんだな
はは…」
少女は驚いた。
普段ならそんなに雄弁家でもないようにみえる初めてあった人間が
こんなに感情的になって話をし始めるのだ
私の知らない話を
お喋りなお姉様方はいつも取り止めのない話をするのだが
私が嬉しそうな顔をするとにっこり笑ってまた楽しそうに話をするのだ
だから少女はにっこり笑う事にした。
それ以外に思いつかなったから
「笑っ…そうだな、落ちつこう。
あいつに接触したのは儀式を滞りなく進める為だったのに
…不思議なもんだな
あいつは居場所を探してた、
でも気づいてないんだよあいつは
自分自身が居心地の良い場を作ってるってことに
神事の準備の度に話し合いが行われたけども
彼処に俺の居場所なんて無かったよ
重要なのは役目であって、俺じゃないんだ…俺じゃないんだよ
だから、人魚姫を見た事があるっていう言った奴が出てきたのには焦ったよ
いつ儀式の事がバレやしないかとか
そして変わっていく街の様子も
町おこしとか言いながら昔からやって来たこの儀式の事だけは話せないから
…だからかもしれない
人魚姫を見た事があるって言った奴らの中には不審な奴がいっぱいいたんだ
俺にはどこか変だという事ぐらいしか分からない
毎日不安だったよ…
そう不安だったんだ」
少女は初めてあった人間がこの男であった事に感謝した。
皆不安なのだ
不安を押し隠してそれでもどう振る舞うか、
それを教えてくれるような気がして
少女は岩場に腰掛けて洞窟の様子を眺める事にした
また、同じ男が現れて話をしてくれるのを期待して