ほしのにんぎょひめ Bei dir sind meine Gedanken

「ほんの少しだけ滞在するみたいに言ってた癖に随分長い事いるじゃない」

「…まあ、宿代がほとんどかからないというのが一番大きな理由かな、

 多少の不便には慣れてるので、これくらい」

「………」

「何をそんなに不満そうな顔してるんだ?…言ってみてよ。」

「たしかに正論だけど、この寛大な大家に何か他に言う事はないの?」

「ああ、差し入れもありがとう。こんなに良くしてくれるのは君が初めてだ

 今日も何か持って来てくれたのか」

「…そうだけど。…また話聞かせてくれる?」

「今日は君の話を聞きたいな。この街のこととかも。

 そういえば君に会った時、酒場でどんな話を聞いたか君は酷く躍起になっていたみたいだけど。あれは?」

「…まあ、あれは私が迂闊だったわ。

 いいわ、教えてあげる。」

「…前会った時よりも格好、なんか変わったね。」

「まあ…ね

 って街の話でしょ?」

「まあ、うん、どうぞ」

「じゃあ、話すわ、いい?

 この街は古くから漁業が盛んだったから、海に纏わる色んな伝承が残ってるの

 だから結構図書館とか今はすっかり寂れちゃってるけど 

 外装だけはやけに豪華ってわけ」

「なるほど、だからこそ君はこうやって空き家を守る主としてここに残り続けている訳でもあるのかい?」

「…ちょっと違うけどだいたいそんなとこね。皆は羨ましがるけど。

 あなたは話を脱線させるのが好きなの?

 このままだといくら時間がかかるか…」

「気に障るなら無視してもいいよ。君は…とても親切だね

「ここにはあなたと私しかいないからね、当然でしょう?

 目の前に居る人の話を無視するなんてそんなこと出来る訳ないじゃない」

「そうかな…俺は、よくお前の話は要領を得ないからって

 いてもいなくても同じ扱いみたいにされていたよ。

 …だからこそ旅を始めたわけで、話しかけられる事は滅多にないけど

 迷惑がられる事はなんども。」

「色んな事を知ってるし、面白い話を聞かせてくれたりもするのに、不思議ね。

 見る目が無いんだわ、その人達に」

「…ありがとう」

「…えーと、この街の伝承の事だけど。いつまでかかるのか」

「…ずっと」

「…え?」

「ずっと聞いていたいなって思うと、どうしても遮ってしまうんだ」

「ずっと居てもいいよ、…迷惑でなければ」

「それが聞けて安心した、話、聞かせてくれる?」

「…分かった。

 この街には人魚姫の伝承が残ってるの」

「酒場には入ってないからまったく知らなかったよ」

「だからあんなにびっくりした顔をしてたのね」

「…それはちょっと違う理由があって…まあ、それはいいや。

 あと、どうして酒場に行ったのが分かったのか教えてほしいんだけど」

「それは私の早合点というか…だいたいあの入江に来るのは酒場で話を聞いてやってきた人がほとんどだから。たまたまね」

「偶然ってすごいね。」

「…そうね」

「話、続けて?」

「…いつまでいるつもり?」

「…だからずっと」

「…そう。じゃあこの話はまた今度、いや、明日かな。

 それでいい?」

「君の話したい時に、いつでも」