多感作用と誰が為の共感

萊草唳の創作雑記

ほしのにんぎょひめ 閑話 稚拙なシナリオライター

寂れた街を再興する為に秘密裏に行われてきたあることに触れる事が出来たのは幸いだったのか、それとも不幸だったのか

どちらにしてもこのどこまでも沈んだ意識が某かの期待も希望も受け付ける事はないのだろう

なんとも酷い気分だ

一度触れてしまった秘密から逃れる術は二択しかないのだ

染まるか、死ぬか

その二択なのである

そしてそれ以外の選択肢を得ることが出来たのが

知ることが出来たのが、選ぶ事が出来たのが

ぼくに課せられた多大な犠牲に並ぶべくもない光栄である

…そう信じて

 

 

「キミは体格が良いし、この仕事にうってつけだ。どうだ、ひとつやってみないか」

なんとも魅惑的な響きから快く引き受けたその仕事は一言で言って退屈そのものだった

そして何回か仕事を請け負ううちに知ってしまった事実が更に気分をどん底に突き落とすのだった

アイツは人魚姫の役目を仰せつかっている

口では興味ないだの、くだらないだの言っているあいつが

一方で重要な役割を果たしているのだ

俺だけに与えられた特別な役割だと思っていたのに

俺はまるで馬鹿の一つ覚えみたいに人魚姫をみたと言ってるのを奴は尻目に素知らぬふりをして

酷い屈辱だ

今日もいつものあの酒場に身を置く

くだらない話をしに、くだらない奴がやってくる

酒なんて酔えればいいのだ、味なんて

いつの日か俺の飲みっぷりに怯んだのか、俺を見るなり老いぼれが二人顔を見合せて何やらひそひそ話をしていたが

酒すらまともに飲めないのか

流石、この街にはくだらない奴しかいないといったところである

 

ああ…飲み方も気にいらない、全てが

なんでも知ったかのような素振りで

俺だってお前ぐらいの能力はあるわけで

比べるべくもない

俺は何でも出来るし、知ってるのだから

この鬱屈した気分にいくら酒をつぎ込んだとて晴れることはないんだ

憂鬱な気分で朝を迎える度に

何かを諦めれてしまえば、それこそが強さだと

全てを踏みつぶせば、それでお仕舞いだし、始まりなのだ

 

隣に座って人魚姫を信じ切ってるあの馬鹿は酒にすら尻ごみをしてる臆病もので

あいつもし人魚姫が男で、しかもいつも一緒に居るやつだって知ったらどんな顔をするんだろうな

想像するだけで嗤いが込み上げてくる

俺は誰にも心を許した事なんてないんだ

本心を知っている奴なんてこの世界にどこにもいない

馬鹿には分かるわけがないのだ

現に目の前にいるこいつはこの俺を崇拝しているようだし、どこまでも人魚姫の話を信じている

こんな簡単な事はない

 

今日は久しぶりに客がやってきた

ああ、なんとも体格のひょろいやつがやってきた

少し脅せばすぐ怯むような、弱いやつ

なんの退屈しのぎにもならないような味気ない相手が来たもんだ

 

 

…賽は投げられた

薙げども薙げども災がおのれの身を沈めるまで