「あの日、見知らぬ男が酒場に来たんだ、久しぶりに
そしてあいつが掴みかかっていつもの品定めをしたあと
滞りなくあの洞窟付近の海岸にに男は誘導される筈だった
俺は鄙びた街に人を呼ぶ為の客寄せ要員として
人魚姫の格好をしてたんだ
だが、席を代わる時に異変を感じて、周りに助けを求めようとしたときに
お前は全く事情を知らなかった事に気がついて、
それで躊躇したんだ
お前は元々あんなやつと一緒にいるようなタイプじゃない、
他でもない人魚姫の伝承を信じていたが為に一緒にいたようなもんで…
この話はまあいい
とにかくだ
あいつを死なせる原因を作ったのは、俺なんだ
俺は詳しくは知らない、けどあの日あいつは死んだんだ
それだけは確かだ
店を営んでたという理由だけで全ての罪を問われる事になったのは他でもないあの店主だ
だからこそ俺はあの人が残したこの店で同じ事をやっている
俺があの時知り得なかった事を知る為に
あいつが死んだあとしばらく騒ぎになって
俺は人魚姫については何でも知ってるとホラを吹く馴染みの客だとか、人魚姫をついさっき見たと嘯く客は来なくなったよ
あんなに人魚姫の事ばかり話していたのに
慣習に溺れた奴らは胡座をかいてそこに居座り続ける事に躊躇がない、それで良いと思っているからだ
免罪符なんだよ、そこに居直る事が、当人にとっての
本人にとっての筋書きどおりは、外から来た人に対して強い忌避感情を呼び起こすものだと
いい加減気づけば良かったのに
そして、その功罪がもっと最悪な事態を引き起こすって事に
傲慢とは、この事だ
相手が見えてない、同じ事を同じようにするだけで当人にとってこれ以上楽な事はない
だから溺れるんだ、酒にも
味なんてわかっちゃいない
どれだけ物を変えようと、気づきはしない
振りかざす為の威を求めるんだ、ただひたすら
俺は、伝承の存在を知っている、そしてそれが間違った形で利用されていた事も
だからこそここにいて
一番知りたかった真実を探し続けているんだ」
ふと
いつだったか店主の言った言葉を思い出していた
「…君は、旅に出ると良い
そして自分にとって何がほんとうのさいわいなのか、見極める必要があるし、君にはその資格があるということだ
これから起こる責は私が全て被ることになるだろう、
何故なら場所を提供してしまったのは私だし、
食い止める事もできたはずなのに、
もちろん気づかない訳がなかったのに
ここで最高の仕事が出来れば良いと、ただそれだけを救いにして見ないふりをしていただけだ」
ぼくは確かにあの時人魚姫の伝承を信じていたし、そして人魚姫の存在も信じていた
テーブルに招かれたあの人は一言も喋らなかったし、
招きいれた張本人がしばらくすると席を外し何処かへ行ってしまったこと以外に特に不自然さを感じるような場面は無かったかのように思う
そして、あの日いつも隣で話をしていたあいつが死んでしまったのは事実で、
「店主はどこまで知っていたんだろうね…」
「俺にもあの人の考えてる事はわからない、ただこのままだとどうなる事になるかぐらいはわかっていたのかもしれないな
あの人の事だから」
「君がそんなに人を褒めてるのは見た事がないな」
「あの人の存在は特別だろ
お前にとっても、勿論俺にとっても」
「そうだね、自分の生まれた街を見下さなくて済んだのはあの人のお蔭だったかもしれない」
そしてぼくが信じていた人魚姫の伝承とは一体何だったのだろうか
まだ、思い出さなければならない事があるようだ