多感作用と誰が為の共感

萊草唳の創作雑記

ほしのにんぎょひめ 13項

「実際いるにはいるんだよ、お前みたいに、純粋に人魚姫の存在を信じて

長年それを追い求めているような人たちは

…ただそういう人たちはかなり高齢で

自分から情報を提供したり、交換しに何処か集まって会話するという事がないんだ

だからこそそれを利用するような奴等が出て来てしまったというわけなのだけれども」

「という事は、酒場に集まっていた人たちは…?」

「全員あいつらの差し金か、

単に注目されたくて嘘の話をしにやってくるような奴ばかりだよ、残念ながら」

「ごめん、ぼくはそこで話されていた人魚姫の伝承じたい思い出せないでいるんだ」

「どこか様子がおかしいと思ったら、そんな事まで忘れてしまってたのか

…なるほど

ついこの前お前がやって来た時、俺もお前が誰だか思い出せないままで

…お前があそこの席に嬉しそうな顔をして座るもんだから

それでようやくお前だって分かったよ」

「…ぼくは君が他の誰かの為に席を明け渡したとこを思い出していたらしい」

「なるほど、あの日の事か。」

「…え?」

「お前にアブサンを飲ませてそしてそのまま音信不通になった、あの日」