多感作用と誰が為の共感

萊草唳の創作雑記

ほしのにんぎょひめ 5項

アブサンのボトルは銀の盆に載っていて隣には切り細工の装飾の施された入り口は広くそこから細長くなっていって下方が少し風船状に膨らんだ専用のグラスと小さなココット皿に入った紅茶用の角ばった砂糖の塊と、ジッポーライターと銀製のこれまた美しい装飾の施されたアブサンスプーンが一つ 氷は粗く砕かれたものがすでにグラスに入っていて仄暗い酒場のわずかな灯りを受けてきらきらとしていた。

「期待してた以上のものが来たな、久しぶりに楽しめそうだ、なんともありがたい」

店主はとても誇らしげであった。

「まだ、必要なものがあるだろ?」

と言ってことりとミネラルウォーターの入った真鍮製のファウンテンを置いた。

ぼくはわくわくせずにはいられず手を閉じたり開いたりしながら早速作業に取り掛かることにした。 焦りは禁物だ、この綺麗な薄緑の液体がやがて乳白色を帯びて砂糖の粒と織り為ってゆっくりと微睡んでいく様子を見届けなければならないのである。

  砂糖の上にアブサンをゆっくり注いでいくと砂糖は湿り気を帯び、端が僅かに欠けていく、そこにライターの火を灯すのだ。 ライターの煌びやかな黄白色の火がスプーンの上の角砂糖に移ると仄暗い青い炎が瞬く間に広がっていく 熱を帯びた砂糖がスプーンの隙間を通って氷を溶かしていくと水面上では乳白色の帯が広がり始めるのだった。

ぼくはアブサンの炎がみたいので、ファウンテンの水は、角砂糖の炎を消す為だけに使うものと決めているのであった。 最後にスプーンでゆっくりとかき混ぜれば終わりである。 溶かす砂糖は少なめ、がぼくのモットーだ。