多感作用と誰が為の共感

萊草唳の創作雑記

虚実を帯びた果はやがて腐り落ちる

何とも衝撃的なくだりから始まる彼女の独白は何処か空虚で

伏し目がちになりながら、手を組んでいる姿は悲痛な記憶から滲み出す感情に身を寄せているというよりも

誰も知らない秘密に触れてしまったかのような愉悦感とそれをひけらかすことへの背徳感に酔いしれている、

そんな薄気味悪い雰囲気を纏わせているのであった

彼女を突き動かしているのは

どのように取り繕っても埋没していく、己の平凡さへの恐怖であり

またそれに対する脅迫めいた強い忌避的感情からであり

紡がれる物語は己が特別な存在である事を決定的づける為の従者を得る為に時に想像から、聞き知った話から、どんどん肥大化していくばかりであった

下人の行方は誰も知らないという文言で締めくくられた物語があった

盗人となった下人に語るべき言葉はないからである

罪を犯すまでの逡巡が

下人と罪人となった下人を隔てる唯一のものである

それを一旦越えてしまえば

あとは老婆を蹴飛ばし勢いのままに疫病蔓延る市中を闊歩する魑魅魍魎と成り下がるばかりである

かつて切り裂きジャックと呼ばれた男がいた

彼が後世に名を残したのはそれが時に彼と呼んでしまうにも待ったがかかってしまうような名義上の存在であったからに過ぎない

彼とも彼女ともつかない犯人の行方は誰も知らないまま

誰の目にも止まらない、時には嘲笑の的になった被害者の彼女達の名前が後世に残り続け、時に創作を彩る一登場人物として語られるまでになったのである

何とも皮肉な事である